※前編では、IAB/MRC「アテンション計測ガイドライン」正式版の内容を整理しました。
1. 広告効果の本質:Attentionは「入口」、Memoryが「出口」
IAB/MRCは、Attentionを「広告成果を理解するための診断データ」と表現しています。一方で、ブランドリフトや購買、クチコミなどの最終的なビジネス成果を決めるのは、Memory(記憶)です。
心理学・神経科学では、以下の流れが示されています。
感情 → Attention(注意) → Memory(記憶) → 行動
注意が向き、感情を伴った情報ほど記憶に残りやすく、記憶されているブランドほど、行動につながりやすいのです。
▶ OOHは「記憶形成」と非常に相性の良いメディア
OOHは以下の特徴から、人の記憶に残る“体験メディア”としてのポテンシャルが高いと言えます。
- 大型・高没入のビジュアル表現
- 駅や街並みと一体化した“場所の記憶”
- SNSに二次流通しやすい
- 日常の動線上で、繰り返し自然に接触する
2. AIによる「記憶設計」:OOH効果を予測する4つの進化
世界の議論は、Attentionの標準化を経て、「記憶の定量化」と「記憶効率の設計」へと進みつつあります。認知AI・生成AIの進化により、OOHの実務では次の4つの領域が現実的な選択肢になってきました。
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領域 |
何をする技術か |
OOH設計での役割 |
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① |
サリエンシー分析(Saliency) |
画像・映像の「どこに視線が向かいやすいか」を予測 |
クリエイティブ内の“目立たせるべき要素”を事前に最適化 |
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② |
Attention Prediction |
視線データ×AIモデルで、注目秒数や注目率を推定 |
駅・車内・屋外ごとの“アテンション秒数マップ”の作成 |
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③ |
記憶推定(Memorability Scoring) |
画像・映像の「記憶されやすさ」をスコアリング |
素材やロケーションごとの「記憶スコア」を可視化し、A/B比較 |
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④ |
AEMモデル(Attention × Memory Model) |
注意 → 記憶 → ブランド行動までをモデル化 |
「見られる確率」ではなく「記憶される確率」を設計する基盤 |
🧠 AIモデルの“補完的な”役割:パネル調査の限界を効率化
従来、記憶や態度変容を測る主役はパネルサーベイでしたが、回答バイアスやコストといった課題があります。AIモデルはサーベイを「すべて置き換える存在」ではなく、以下の役割で限界を補完・効率化します。
- 大量のクリエイティブを短時間でスクリーニングする
- どの程度「記憶されやすいか」を事前に予測する
- サーベイ結果と突き合わせて、より精度の高いモデルを作る
3. 新しい競争軸:OOHの価値は「記憶効率」で語られる
今後、OOHの価値は次の2つの指標によって、より定量的に語られていくと考えられます。
❶ Attention Efficiency(アテンション効率)
「1秒の注意が、どれだけ記憶・ブランド成果につながったか」を示す効率指標です。
- 「長く見られた広告」、「短い時間でも繰り返しで記憶に残る広告」が評価されるようになる。
- OOHは短時間・遠距離での注意を多く獲得するため、このEfficiencyを高める余地が非常に大きいメディアです。
❷ Memory Lift(記憶リフト)
広告接触後で、ブランドに関する記憶保持率がどれだけ上昇したかを測る指標です。
- 単なる認知(Awareness)ではなく、記憶(Memory)に焦点をあてる。
- 「数日後・数週間後に、どれだけ覚えていてもらえるか」を評価する。
今後はAIモデルとサーベイを組み合わせることで、「この駅は若年層に対する Memory Lift が高い」といった、媒体ごとの“記憶プロファイル”を提示できるようになるはずです。
4. 日本市場への示唆:「測る」フェーズから「設計する」フェーズへ
日本のOOH市場でもアテンションや視線の「測定」は進んでいますが、まだ「データを出すところで止まっている」ケースが少なくありません。これからは、明確に「測るOOH」から「設計するOOH」へと踏み出すことが重要です。
日本市場が進むべき4つの方向性(アドエラ視点)
- 「Attention × Memory」の二層評価へ
Attentionだけでなく、Memoryまで含めて“成果につながるOOH”を設計・提案する。 - AIによる“OOH記憶設計”の普及と、サーベイの再定義
記憶推定AIを主軸に据え、サーベイはモデルの検証や行動指標との接続確認といった「最後の確かめ」に集中させる。 - 媒体別の「Memory Profile」作成
駅・路線ごとの記憶残存率やAttention Efficiencyを可視化し、媒体の“得意シーン”を記憶指標で説明できるようにする。 - ブランド側の“OOH戦略設計”
「どの駅で、どの素材を、どの順番で掲出すると、記憶効率が最大化するか」をシミュレーションで提示する。
5. 結論:Attention → Memoryへ。OOHの価値を変える「記憶効率」という視点
OOHの価値は、「インプレッション」や「視認率」を超え、「どれだけ人の記憶に残るか」で語られる時代に入ります。
- IAB/MRCが整備したAttentionの世界標準
- CIMM/IAB Playbookが示す実務的なハイブリッド測定の考え方
- AIがもたらす記憶推定・記憶設計の新しい可能性
これらを組み合わせ、OOHは人の感情や都市の記憶と結びつく“記憶メディア”へと進化します。
大阪メトロ アドエラは、Attention → Memory → Brand Impact へとつながる新しい測定・設計モデルの研究を通じて、日本のOOH効果測定を次のステージへ引き上げていきます。
本テーマに関するOOH効果測定のご相談や、AI×Attention×Memoryに関する共同研究・実証実験のご希望があれば、ぜひお問い合わせください。


