※後編では、「OOHのアテンション測定」をテーマに、AIモデル活用による記憶効率(Memory Efficiency)の設計について詳述します。
1. IAB/MRCが公式アテンション測定ガイドラインを公開
2025年11月11日、IAB(Interactive Advertising Bureau)と MRC(Media Rating Council)は、広告業界初となる公式アテンション測定ガイドライン「IAB and MRC Attention Measurement Guidelines」(正式版)を公開しました。
Attention Measurement: The Industry Framework for Measuring Attention
このガイドラインは、長らくベンダーごとに定義や指標がバラバラだった「Attention(注意)」について、共通の言語と枠組みを与えるものです。
同時に、以下の実務寄りドキュメントも公開され、広告主・代理店・媒体社・リサーチ会社が共通言語で話せるための基盤が整いました。
- CIMM(Coalition for Innovative Media Measurement)と共同作成の「Attention Measurement Playbook for Marketers」
- Advertiser/Agency/Publisher 向けチェックリスト
- RFI(情報依頼)テンプレート
2. ガイドラインは「すべてのメディア」が対象 ― OOHが“比較可能な指標”を持つ時代へ
今回のガイドラインで重要なのが対象範囲です。冒頭では次のように明記されています。
“Attention measurement applies across ALL media environments.”
(アテンション測定はあらゆるメディア環境に適用される)
対象となる主要な広告接点には、以下がすべて含まれます。
- デジタル広告(ディスプレイ、動画、ソーシャル など)
- TV/CTV
- オーディオ広告
- OOH(屋外・交通広告/DOOH)
- リテールメディア
- ゲーム内広告・アプリ内広告
これにより、これまでデジタルと同じ基準で測るのが難しかったOOHは、デジタルと同じ標準規格のもとで議論できる新しいフェーズに入ったと言えます。
3. 測定手法は6分類。「AIモデル」が正式採用 ― OOHの事前分析を認めるPredictive Modeling
IAB/MRCは、Attention測定手法を以下の6つに整理し、いずれも正当なアプローチとして認めています。
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# |
アプローチ |
内容(IAB/MRCの整理) |
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① |
Behavioral Signals |
スクロール、クリック、滞在時間、音声ON/OFF など行動ログ |
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② |
Visual / Auditory |
視線追跡、顔向き、画面注視推定、音声への注意など |
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③ |
Physiological / Neurological |
心拍、瞳孔、脳波など生体反応 |
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④ |
Survey / Panel |
想起、理解、好意、購入意向など |
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⑤ |
Predictive Modeling |
AI/機械学習によるアテンション推定モデル |
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⑥ |
Hybrid Approaches |
上記を組み合わせたハイブリッド |
💡 アドエラとしての解釈:OOHでは「視線 × AIモデル」のハイブリッドが“必然”
OOHは環境が多様なため、すべてのロケーションでアイトラッキング(視線データの実測)を行うのは非現実的です。
そのため、OOHでは
- 一部の代表環境で視線データ(実測)を取り、
- その結果と環境条件をもとにAIモデル(Predictive Modeling)で全体を推定する
という「視線 × AIモデル」のハイブリッド測定が、スケールと精度の両立という観点から最も合理的な選択肢の一つだと考えられます。
4. 世界の反応:歓迎ムードと同時に「3つの重要な懸念」
業界全体としては歓迎ムードが広がる一方で、以下の3点については重要な懸念として議論されています。これらはOOHにとっても非常に重要な論点です。
⚠ 懸念されているポイント
- Attentionは成果ではない(Attention ≠ Outcome)
ガイドライン本文でも、Attentionはあくまで「成果を理解するための診断データ」であり、“それ自体を最終KPIにしてはならない” という注意書きが繰り返されています。 - AIモデルの透明性・再現性
モデルについては、学習データ、有効な環境、検証方法と再現性などの開示が必須とされており、「どこまで透明性を示せるか」が今後の競争軸になると言われています。 - 媒体特性の違いをどう扱うか
OOH・CTV・ソーシャルを、「1本のAttentionスコア」で単純に比較すべきではないという議論が多く、Playbookでも“format/media environment ごとに attention quality thresholds は異なる”とされています。
5. 「Playbook」と「アドエラ」が捉えるOOHの特殊性
OOHを効果的に測定・設計するためには、その特殊性を考慮する必要があります。
① OOHは「視線 × AIモデル」のハイブリッドが現実的
- Playbook: 複数手法のハイブリッドが推奨され、Predictive Modelingがスケールに有効と明言。
- アドエラ解釈: 全ロケーションでの実測が難しいOOHにおいては、代表環境での視線データ × AIモデルというハイブリッドが最も現場に即したやり方です。
② OOH環境は「視線の入り方」が特殊である
- Playbook: 「context(環境)」の考慮やmediaごとの違いには言及。
- アドエラ解釈: OOHは、周辺視→中心視への移行、視認距離・高さ・角度、動線による視点の向きと接触時間といった要素がAttentionに大きく影響するため、OOH向けモデルにはこれらの環境変数を組み込むことが前提となります。
③ 記憶(Memory)を測るPanel/SurveyとAIモデルの役割分担
- Playbook: ブランド認知など記憶寄りのアウトカムは、従来通りパネル/サーベイで把握されている事例を紹介。
- アドエラ解釈: サーベイにはコストやバイアスといった課題があるため、今後は「AIによる記憶推定モデル」が高速なスクリーニングやサーベイ結果の補完・事前予測として役割分担し、共存していくのが現実的です。
6. 前編まとめ:OOHが得た“3つの追い風”と、これからの課題
今回のIAB/MRCガイドラインとPlaybookによって、OOHは次の3つの追い風を得ました。
- OOHがAttention測定の対象になったこと
- デジタルと同じ共通言語で、クロスメディアの中で語れるようになった。
- AIモデル(Predictive Modeling)が公式に採用されたこと
- OOHにおけるアテンション予測といったR&Dが、世界標準と整合していると確認できた。
- Attentionの次に「Memory(記憶)」が議論の中心になりつつあること
- 記憶形成との親和性が高いOOHにとって、「記憶効率(Memory Efficiency)」は大きなチャンス領域。


