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OOHの信頼性を再定義する「二重の信頼設計」

1. OOH市場が直面する「効果」の前の「説明責任」

現在のOOH/DOOH市場において、広告主が投資の判断基準として最も求めているのは、広告による「効果(Effectiveness)」の議論に先立つ「説明責任(Accountability)」の確立です。

「その広告は、本当に計画通り掲出されたのか?(実行の証明)」 「それは、どれだけの人数に届く前提の媒体なのか?(指標の正当性)」

これら2つの本質的な問いに対し、グローバル市場では今、OOHの信頼を支える仕組みを「二層化」することで明確な回答を出そうとしています。信頼を主観や慣習に委ねるのではなく、構造的に担保する「二重の信頼設計」が、2026年に向けた世界標準の姿です。

2. 信頼を支える「二つの柱」:JICと第三者検証

OOHにおける信頼設計の根幹は、役割の異なる以下の2つの要素(柱)を独立させることにあります。

  • JIC (Joint Industry Currency / 業界共通通貨)
    • 役割: リーチやインプレッションの定義を統一し、業界全体にガバナンスを効かせる「共通のものさし」です
    • 主要事例: 米国の「Geopath」、英国の「Route」、豪州の「MOVE
  • Independent Verification (第三者検証)
    • 役割: 媒体社から独立した立場(サードパーティ)で、キャンペーンが計画通りに配信・掲出されたかを客観的に証明(Proof-of-Play(再生証明) / Proof-of-Posting(掲出証明))します
    • 主要事例: 米国の「OOH TRACE」等、英国の「Playout」、豪州の「Veridooh

3. 米国が示す「監査の義務化」:信頼のコモディティ化への警鐘

米国市場では、業界共通通貨であるGeopathを土台としつつ、透明性に対する要求が「監査前提」のフェーズへと移行しています。

2025年12に発行された「OOH Measurement Standards – Phase 1 & 2 Combined – Final (MRC)」では、取引に用いられるデータの正当性を担保するため、「第三者による独立監査」を推奨し、監査可能なプロセスを維持することが明確に打ち出されました。

厳密にはガイドライン上の「推奨」ではあるものの、大規模な予算を投じる広告主の間では、独立監査を受けていないデータは取引の遡上に載らないという「事実上の前提条件」へと昇格しています。もはや検証はオプションではなく、通貨としての信頼性を成立させるための最低条件といえます。

4. 英国の分業モデル:「計画」と「実績」の分離がもたらす健全なエコシステム

英国は、JICと検証基盤の役割を分担させることで、メディアエコシステムの透明性を高めています。

  • Route (JIC): 2025年4月から新体制へ移行。データ収集をIpsos、データ提供をAdwantedが担う分業体制を敷き、測定モデルの精度と「通貨の品質」を追求しています
  • Playout (検証基盤): 第三者の立場であるMediaSenseが配信データの整合性を独立テストし、その結果を「validated OOH data(検証済みデータ)」として提供しています。

この仕組みのポイントは、「何人に届く予定か(計画:Route)」「本当に広告が出たか(実績:Playout)」を明確に切り分け、それぞれの専門性を高めることにあります。これにより、OOHはデジタル広告と比肩する「説明可能なメディア」としての地位を確立しました。

5. 豪州2026年、検証の「義務化」へ:エコシステム統合が生む信頼

ダイナミックな進化を遂げているオーストラリア市場では、検証が「仕組み」から「制度」へと昇華しています。

豪州では、2026年3月16日に新通貨「MOVE」への完全移行が予定されています。特筆すべきは、MOVEの制度設計において、第三者検証が「必須(Must-have)」と定義されている点です。つまり、検証なしには標準取引が行えない環境が構築されます。

この動きを支えるのが、豪州発の検証プラットフォーム「Veridooh」です。彼らの成功の鍵は、単なる技術提供に留まらず、業界団体(OMA)の会員として深くエコシステムに入り込んでいる点にあります。競合する媒体社同士が「信頼の基盤」を共有する、いわゆる「協調的競争」のモデルを確立したことが、市場全体の信頼性を底上げし、結果としてグローバル市場への進出を加速させる原動力となっています。

6. 日本のOOH業界が検証すべき「3つのレイヤー」

海外の動向を鑑みれば、日本においても「第三者検証」を以下の3つのレイヤーに構造化し、どの領域を誰が担保するのかを議論・実装すべきです。

レイヤー

信頼設計の柱

検証対象

主な内容

1. 通貨の検証

JIC領域

測定モデルの正当性

推計ロジック・プロセス、入力データの妥当性、独立監査対応

2. 配信・掲出の検証

検証領域

実行の証明

Proof-of-Play / Proof-of-Posting の標準化と自動化

3. 次世代指標の検証

発展領域

広告受容性の検証

アテンション・アウトカム測定定義の統一、IAB/MRCガイドライン準拠


グローバルの潮流は明白です。「二重の信頼設計」を制度として整えている国ほど、広告主の不安を払拭し、結果としてOOHへの予算拡大という実利を手にしています。
日本がOOHを「説明可能なメディア」へと進化させ、主要な広告チャネルとしての地位を盤石にするためには、この信頼設計の導入に向けた具体的な歩みを進めるべきと思います。

 

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