広告業界では「生成AI」の活用に慎重な空気も流れています。2024年後半から2025年にかけて、コカ·コーラやマクドナルドといった世界的ブランドが公開したAI生成広告が、「不気味だ」「クリエイターへの敬意がない」と激しい批判に晒されたのは記憶に新しいところです。
そんな「AIアレルギー」が広がる中で、スイスの小売最大手Migros(ミグロ)が仕掛けた施策が、大きな注目を集めています。
彼らが示したのは、AIを「安価で作るための道具」ではなく、「公共の伝統を、自社のブランド資産(IP)へ昇華させるためのエンジン」として使う、極めてしたたかな戦略でした。
1. 200年の伝統を「ベンツに乗るラッパー」へ
Migrosが題材に選んだのは、スイスで200年前から愛されている伝統的なパン人形「Grittibänz(グリッティベンツ)」。日本でいえば、誰もが知る季節行事の象徴のような存在です。
彼らはこの伝統を、AIによってラップして踊るマスコット「Gritti」へと変身させました。
- 爆速のバイラル: 公開されたAI動画「Grittibänz im Benz(ベンツに乗るグリッティベンツ)」はTikTok起点で爆発。わずか48時間でネット上を席巻。
- カルチャーへの浸透: 単なる広告ソングに留まらず、Spotifyのチャートにもランクイン。
- 参考記事:Migros löst mit KI-Grittibänz einen Hype aus
ここで重要なのは、AIを使ったこと自体ではなく、「公共の伝統(みんなの文化)」を、SNS時代の「人格を持ったキャラクター」へ一気に変換した点にあります。
@migros.ch Grittibänz im Benzzz 🚗✨ Gritti ist zurück und bereit zum Bouncen #migros #migroskind #grittibänz #benz #inmeinembenz
♬ Grittibenz im Benz - Migros
2. 真の勝負所は「バズの48時間後」にあった
この施策が、これまでの「AI広告」と決定的に違うのは、その次の一手です。
バズがピークに達した直後、Migrosはこのキャラクター「Gritti」を、衣料品や帽子、ぬいぐるみといったカテゴリーで画像商標として保護する出願を行いました(Swissreg出願番号:01077/2026)。
Migrosは、AIを活用して「文化のアップデート」を誰よりも早く行い、その権利を最短距離で押さえにいったのです。これが、単発のキャンペーンで終わる他社との決定的な差となりました。
3. OOH/FOOHの視点:「配信」から「話題化+権利設計」
私たち大阪メトロアドエラが取り組むOOH(交通広告)や、SNSで話題のFOOH(シュールOOH)の文脈でも、この事例は参考になります。今回のケースが示すのは、「生成AIで作った動画がバズった」ではありません。“公共の伝統”を、AIで再パッケージして“企業のブランド資産”に変えられるかというテストに見えます。
- 「歴史」を所有する手法:これまでは、伝統や文化は「みんなのもの」でした。しかし、Migrosの事例は「伝統を最初にAIでリメイクし、商標権を押さえた者が、その文化の現代的価値を独占できる」という可能性を示しました。もちろん、法的に「伝統そのもの」を所有できるわけではありません。ただし商標は、特定カテゴリでの商業利用の入口を押さえる力を持ちます。
- 広告費を「資産」に変える:従来の広告費は、キャンペーン期間が終われば消えていく「消費型」のコストでした。しかし、AIキャラクターを商標化し、グッズ展開まで見据える戦略は、広告費を「IP構築のための投資」に変えています。
- AI×リアルの商品化:デジタル上の流行(AIキャラクター)を、即座にフィジカルな商品(衣類や玩具)に落とし込むスピード感。デジタルとリアルを繋ぐ今のマーケティングに求められる姿に思います。
もし私たちが、日本や大阪のフィールドでこの戦略を応用するなら、以下の3点が論点になります。
A. 公共性の高い題材の再定義
地域の伝統行事、観光資産、あるいは公共空間の象徴。これらをAIで現代的にリメイクする際、「誰のものか」という議論を逆手に取り、公式としての「新しい顔」を提示できるか。
B. 「拡散」より先に「権利と運用」を決める
バズってから動くのでは遅いかもしれません。キャラ名、ロゴ、そして展開したい商品カテゴリの商標。AIによる二次創作(UGC)をどこまで許容し、どこからを公式の収益源とするか、事前の設計が不可欠です。
C. “AIらしさ”を透明性の武器にする
Migrosのように、あえて「AIならではのキャラクター性」を前面に出し、テクノロジーをブランドの個性として楽しんでもらう姿勢が、バックラッシュを防ぐ鍵となります。
Migrosの「Gritti」事例は、生成AIが広告クリエイティブを効率化するだけの道具ではないことを証明しました。大阪という歴史と活気にあふれる街で、新しいIPをどう育てていくか。私たち大阪メトロアドエラと一緒に、未来の「資産」を創り出してみませんか?


