Disney+がハリウッドのど真ん中で公開した巨大DOOH(デジタル屋外広告)が、広告業界に大きな衝撃を与えています。それは、単なる3D動画ではありません。巨大なLEDビジョンに「本物の水槽ユニット」を組み込み、映像と水流を完全に同期させた没入型の屋外広告です。
映像の中の“海”が街へ溢れ出し、歩行者の目の前で霧が漂い、水が跳ね、波が動く──。
SNSでは「今年もっとも狂っている DOOH」「映画のセット級」「OOHのテーマパーク化」と騒然となっています。本ブログでは、2025年のDOOHの象徴となりそうな、この『 Percy Jackson Season 2』のプロモーションがいかに「新次元の体験装置」であるかを深掘りします。
1. なぜこのDOOHが「新次元の体験装置」なのか?
従来のDOOHが「映像の進化」に留まっていたのに対し、この広告は「物理的な体験の統合」へと踏み込みました。
① 「物理 DOOH(Physical OOH)」の構造革命
Disney+は、映像演出だけでなく、巨大なアクリル水槽ユニットをOOHボードに直接インストールしました。この構造は、もはや屋外広告というよりも、テーマパークのアトラクションやライブ演出の設備に近いです。
- 巨大なアクリル水槽: ビルボードに直接組み込まれ、水流を発生させる基盤となる。
- 滝状の水流と噴射水: 映像内の動きに連動し、物理的な水のエフェクトを街中に放出。
- 霧(ミスト)のバースト: キャラクターの登場や波のインパクトに合わせて発生し、視覚と触覚に訴える。
- 安全管理・水量制御: 施設級の安全基準が求められ、排水の再循環システムまで構築されていると推定されます。
映像(Digital)と実体素材(Physical)が一体化したこのフィジカルDOOHは、従来のOOHの限界を大きく超えるものです。
② 映像 × 水流の「完全同期」による没入設計
Season 2の原作が『The Sea of Monsters(海の怪物たち)』であるため、「海」の世界観を街に持ち込むことが最大のミッションでした。その没入感を生み出したのが、映像と水のクロスモーダル(視覚 × 物理)の統合演出です。
- 水流のタイムコード同期: 映像の特定のフレーム(例:波が打ち寄せる瞬間)に、上部のノズルから本物の水が落下するよう精密にプログラミング。
- ミストによる臨場感: 霧発生装置がキャラクターの動きや海中の雰囲気に合わせてミストを噴射。
- 光の反射の相互作用: 水槽の表面がLED映像の光を反射することで、映像内の光景がリアルな水面に映り込んでいるように見え、視聴者を錯覚させます。
歩行者からすれば、「CGかと思ったら本物だった」「水が映像から飛び出してきている」という驚きが生まれ、立ち止まってしまうほどの強い体験を提供しています。
2. 設置場所が最大化する体験型OOHの価値
このDOOHが設置されたのは、世界中から観光客が集まるHollywood & Vineです。
トラフィック密集地帯であるこの場所で、前代未聞の「水が動くビルボード」が登場すれば、以下の連鎖は必然です。
歩行者 → 立ち止まり → 撮影 → 投稿 → 拡散
実際、この事例はInstagram ReelsやTikTokで爆発的に拡散し、世界中の広告クリエイティブ専門家が絶賛する事態となりました。
このOOH自体が「ハリウッドの新しい観光コンテンツ」として成立しており、広告効果は設置場所のトラフィックを超えて、グローバルなSNSトラフィックへと拡大したのです。
3. Disney+が「物理DOOH」を推進する戦略的背景
なぜ、ストリーミングプラットフォームであるDisney+が、これほど大掛かりな物理広告を打つ必要があったのでしょうか。
① IP世界観の物理拡張
ストリーミング時代において、単に予告編を流すだけでは作品への関心は高まりません。『Percy Jackson』の「海」という要素を都市空間に物理的に持ち込むことで、IP体験を「画面の外へ」飛び出させました。これは、ファンや潜在視聴者に、作品世界が実在するかのような錯覚を与え、ストリーミングへの動線を強力に構築します。
② SNS拡散の「勝利の方程式」の活用
この広告は、「水 × 光 × 屋外」という、SNSで最も伸びやすいビジュアル要素をすべて統合しています。水のダイナミックな動き、LEDの鮮やかな光、そして都市の巨大なスケールが合わさることで、ユーザーは「誰かに見せたい」という強い衝動に駆られ、圧倒的な拡散力を持つ設計となっています。
③ コンテンツマーケティングの垂直統合
これは「予告編公開→ 世界観OOH→SNS拡散→ ストリーミング視聴」という、プロモーションの動線を極限まで洗練させた垂直統合の成功例です。OOHを「体験装置」として活用することで、マーケティング全体のROI(投資対効果)を最大化しています。
@percyseries your first @ has to come see this with you btw #percyjackson ♬ original sound - Percy Jackson
結論:OOHは「体験デバイス」へ進化する
Disney+の『Percy Jackson Season 2』DOOHは、
- DOOHの枠を破る“物質演出”(フィジカルOOH)
- IP世界観の没入的な拡張
- SNS拡散を前提とした都市型プロモーション
これらをすべて統合した、2025年の象徴的DOOHとなりました。
屋外広告は、もはや情報を「表示する面」ではなく、街そのものを舞台にし、驚きと感動を通じて人々の行動(撮影・投稿)を引き出す「体験デバイス」へと進化しています。2026年以降、世界中で、このような「都市✖️ 体験」型のOOHインスタレーションが、広告・プロモーションの主流を占めるかもしれません。


