OOH(屋外広告)の効果をどう測るか。
広告主・代理店・媒体社が同じ基準で会話できる「共通指標」をつくることは、日本市場にとっても避けられない課題です。
ただし、制度設計を誤れば「数値がブラックボックス」「一部の大手媒体ばかり優遇」といった不信感を招きかねません。
そのヒントになるのが、米国でOOH測定の共通基盤を担う Geopath(ジオパス) の取り組みです。
1. 米国Geopathで起きていること
GeopathはアメリカのOOH業界で「メディアカレンシー」とされるデータを提供する団体です。
2025年9月25日には、380名以上が参加したタウンホールが開かれ、次のような内容が共有されました。
Geopath Town Hall Sets a Course for the Future
- 透明性とコミュニケーションを重視
Geopath幹部は「データの説明責任と透明性」を最優先事項として明言しました。 - 2025 Planning Datasetの刷新
10か月以上かけて開発した新データセットには、道路網データの再構築、リーチ&フリークエンシー計算モデルの改良、プレイスベース手法の更新が含まれています。 - OAAAとの連携プロジェクト
業界団体OAAAと協力し、OOHをよりデータドリブンな分野へ進化させる取り組みを強化。 - 質疑応答と双方向性
参加者からの質問に答え、「業界と共につくる基盤」への姿勢を示しました。
加えて重要なのは、独立系媒体オーナーの懸念と業界論争です。
- 「データ精度」「更新の頻度」「大手媒体の優遇」といった問題意識が公然と表明され、業界メディアでも議論が広がっています。
Independent Out of Home Companies Asking for Change at Geopath - Geopathは公式ブログやタウンホールを通じて、誤解への反論や透明性強化の姿勢をアピールしています。
これらの流れから、Geopathが「単なるデータ提供機関」から「業界全体を支える共通インフラ」へと役割を拡張しようとしていることが見えてきます。
2. Geopathの変化と論点
Geopathの直近の動向から浮かぶ論点は次の通りです。
- データ提供から運用支援へ
数値を提供するだけでなく、教育・説明責任・活用サポートといった“運用の質”が問われる段階に。 - 積極的な情報発信
LinkedInやブログを通じ、刷新データや透明性をアピール。批判にも正面から対応する姿勢。 - 多様な声との対話
独立系媒体の「大手偏重」批判に向き合うため、ウェビナーを継続。 - 未来志向の仕組みづくり
OAAAとの共同プロジェクトを通じ、OOH全体をデータドリブンに進化させる構想を提示。
3. 日本のOOH業界への示唆
この事例から、日本のOOH業界が学べるポイントは明確です。
(1) ブラックボックスを避ける
・ロジックの開示:「どのデータをどう使ったのか」を公開。
・更新時の説明:数値変動があれば理由を明示。
(2) 大手偏重を防ぐ
・中小・地方媒体の声を組み込む仕組みをつくる。
・委員会に第三者や学術機関を入れて、公平性を担保。
(3) 国際基準に準拠する
・世界的な測定の流れ(OTS → LTS/VAC → Audience → Attention)を意識した整備。
(4) 双方向コミュニケーションを常態化
・勉強会を定期開催し、現場の声を吸い上げる。
・説明責任と対話を「制度の一部」と位置づける。
4. まとめ:信頼できるメディアカレンシーを作れるかが分岐点
Geopathの事例は、「ブラックボックス化」や「大手偏重」が現実に起こりうることを示しています。
同時に、透明性強化の姿勢は、信頼を取り戻す可能性も示しています。
日本のOOH業界にとっても、透明性・公正性・国際整合性を柱とした仕組みづくりは必須です。
信頼できる“カレンシー”をつくれるかどうかが、OOH広告の未来を大きく左右するでしょう。