IAB(Interactive Advertising Bureau)は、オンライン広告の標準化を牽引してきたデジタル業界団体です。そのIAB(米国)が2025年7月に「DOOHメジャメントガイド」を公開しました。断片的だった測定実務を“共通の土台”で束ね、オムニチャネル比較とクロスチャネル計測(CTV/モバイル/リテール等)へつなげるためのプレイブックです。ガイドは「共通定義・最低限の要件・現行のベストプラクティス」をまとめ、個社の手法やカレンシーの標準化までは踏み込みません。
IAB Digital Out-Of-Home (DOOH) Measurement Guide
■DOOHメジャメントガイドのカバー範囲
含まれること
- データ収集・加工・品質管理(QA)
- オーディエンス測定と主要指標(インプレッション、リーチ/フリークエンシー など)
- Ad Deliveryとビューアビリティ
- レポーティング/透明性/プライバシー
- 空港・交通・小売などロケーション別の留意点
- アトリビューション/インクリメンタリティ
- クロスチャネル統合のベストプラクティス
含まれないこと
- ベンダー推奨や実装仕様、個社メソッドの規定
- 通貨や価格モデルの決定
(=共通言語と最低ラインの提示に留め、通貨・詳細実装は各JIC/事業者・MRC/OAAAへ委ねる)
■MRC / OAAAとの整合と役割分担
- MRC:2024年4月にOOH測定スタンダード Phase 1(Audienceを除く基礎)を正式公開。2025年7月にPhase 2(Audience)ドラフトを公表し、“人ベースの到達”要件を提示しました。IABガイドはこのMRC標準の運用・開示・QA観点を踏まえて整理されています。
→ 米MRCがOOH広告の「オーディエンス測定」基準(ドラフト版)を発表 - OAAA:OTS(Opportunity-to-See)の定義・測定ガイダンスを提示。IABガイドはOTSを起点に、LTSやAudience、アトリビューションまでの用語整理・道筋を示しています。
MRC=標準(要件)、IAB=運用ガイド(実務のまとめ)、OAAA=業界実務の定義と普及という役割分担です。
MRC(OOH Measurement Standards) |
指標・開示・監査の標準要件を定義。Phase 2(Audience)で Gross → OTS → LTS → Audience の“人ベース”要件を具体化 |
ルールブック |
IAB(DOOH Measurement Guide) |
データ収集→PoP→検証→アトリビューション→プログラマ対応までの運用プロセスとベストプラクティス |
運用プレイブック |
- 補足:IAB×MRC「Attention Measurement Guidelines」(2025ドラフト)は“Attention”を共通言語化する動き。DOOHでも補助指標としての使い所を明確にします。
→ アテンション評価の共通基準、IAB/MRCがドラフト公開 〜まずはデジタルメディア対象、OOHにも波及の可能性〜
■用語の説明
- OTS(Opportunity-to-See):表示面の視認可能領域に入った人流に基づくインプレッション
- LTS(Likelihood-to-See):配置・角度・距離・滞在などを考慮し、見えた可能性で補正したインプレッション
- Audience(人ベースの到達):ユニーク到達の要件・開示事項をMRC Phase 2ドラフトで明文化し、他メディアとの比較可能性を狙う
- PoP(Proof of Performance):掲出・再生・配信の第三者検証。IABは独立検証・レポーティング・アトリビューションの活用を推奨
■「インプレッションの最低ライン」をどう数えるか
IABガイドは、計上の最低条件を“Visual Exposure Zone(視認可能領域)”“Presence(人の存在)”“Impression Multiplier”で整理。静止/デジタル/動画/インタラクティブでの扱いも示例化しています。
■「Geopath/Vistar/Veridoohが併記」
ガイドのBuy-side Takeawaysでは、PoP検証やレポーティングに独立ソースを用いる例としてGeopath/Vistar/Veridoohを明示。これは、JIC等の監査・推定とプログラマティック経由の実配信検証を補完関係で突き合わせる運用を推奨、単一ソース依存を避ける実務方針と読みとれます。
■Attentionガイドラインとの接続
IABとMRCは2025年5月にAttention Measurement Guidelines(ドラフト)を公開。「アテンション」の共通言語化と将来のMRC認定審査の基盤を意図し、DOOHも“単独の物差し”ではなくメディア横断で比較できる位置づけに整理されています。DOOHガイドは、その入門~実務の橋渡しです。
■まとめとよくある誤解の整理
- MRC=標準(要件)、IAB=運用(プレイブック)、OAAA=実務定義の普及で、DOOH計測は比較可能性と透明性へ前進
- 「IABが通貨を決めた」:×。IABは実務ガイドであり、通貨や価格モデルは規定しません。
- 「LTSこそ唯一の通貨」:×。MRC Phase 1はOTS等の階層整理を示し、Audience要件はPhase 2で定義。どの階層で取引するかは市場・JICの合意次第です。