電車内広告は、信頼性が高い伝統的な広告手法でありながら今なお宣伝効果が期待できる広告です。電車内広告の魅力はなんといっても、ビジネスパーソン、学生・生徒、主婦・主婦、子供、高齢者といった、ありとあらゆる属性を持つ人々にみてもらえることです。
しかも乗客は電車内広告を繰り返しみることになるので、商品・サービスの認知度を高めるのに適しています。
本記事では、広告主が電車内広告を出稿するメリットや種類、成功事例を詳しく解説し、出稿手順やコスト面のポイントについても紹介します。また、競争が激しいなかで広告効果を最大化する方法や、デメリットを克服する工夫についても触れます。
「電車内広告に興味があるが、どの種類を選ぶべきかわからない」「費用対効果が気になる」といった広告主に実践的な情報をお届けします。
電車内広告のメリットとは
広告主(広告を出す企業)にとって電車内広告には次のようなメリットがあります。
- ターゲット層に直接アプローチできる
- 通勤者に効果的にリーチできる
- ブランディングに寄与
- コスト効果が高い
- 認知度向上につながる
どれも重要なので1つずつ解説します。
ターゲット層に直接アプローチできる点
「電車内広告はさまざまな人がみるのに、なぜ特定のターゲット層にアプローチできるのか」と疑問に感じるかもしれません。しかし乗客の属性は、電車が走る地域、時間、曜日によって偏りが生じます。例えば、オフィス街を通る電車にはビジネスパーソンが多く乗車していますし、大学が複数あるエリアの電車には10代後半から20代前半の人たちが多く乗っています。連休には家族連れが多く乗るでしょう。
広告主は、自社のターゲット層が多く乗っている電車に広告を出すことで、その人たちに直接アプローチできるわけです。
通勤者に効果的にリーチできる理由
通勤者はビジネスパーソンであり、家計のお金を動かせる権限を持っているため、広告主にとっては魅力的な層になります。その通勤者たちは電車内で、短くても数十分、長ければ1時間以上同じ場所に居続けることになり、これは同じ電車内広告を見続けることを意味します。つまり電車内広告は反復訴求力が強く、これは記憶への刷り込みに効果的です。
電車内広告は、広告主にとって魅力的な層である通勤者に、効果的にリーチできる広告手法といえるのです。
最近では、電車内広告とスマホに掲載される広告(インターネット広告)を連動させることも可能です。例えば、電車内広告にQRコードを掲載し、乗客がスマホで読み取ることで、インターネット上の詳細情報へ誘導する仕組みが一般的になっています。
ブランディングにおけるインパクト
電車内広告は企業のブランディングにも貢献するでしょう。
電車のほとんどは民間企業が運営しているわけですが、国民の多くは「電車は公共のもの」と認識しています。この認識は「公共のものは信用できる」という印象に変わり、電車内広告に良いイメージを付与しています。人々の「電車内広告を出せる企業の商品・サービスは間違いがないだろう」という印象は、企業のブランディングにプラスに働きます。
他の広告媒体と比較した際のコスト効果
電車内広告は、さまざまな広告媒体のなかで、コストパフォーマンスに優れるグループに入ります。パフォーマンスについてはこれまで説明したとおり、ターゲット層への直接アプローチやブランディングへの寄与などが挙げられます。
そしてコスト面ですが、電車内広告の価格には、比較的長期間掲載できる割に安価という性質があります。しかも乗客は1枚の電車内広告を数十分から1時間ほど見続けることになるので、1回あたりの視認コストが下がります。
認知度向上につながるシナリオ
電車内広告が商品・サービスの認知度向上につながるシナリオを3段階で紹介します。
■第1段階:みせて興味を引く
乗客は目のやり場に困ったり、スマホの利用に飽きたりすると、広告を見始めます。広告に短くてわかりやすいキャッチコピーや印象的なビジュアルを掲載しておけば、乗客の興味を引くことができます。
■第2段階:記憶への定着
通勤客や通学客は同じ時刻の電車に繰り返し乗るので、同じ広告をみる確率が高くなります。これが、広告の内容を記憶することにつながります。
■第3段階:記憶がよみがえり行動へ
電車内広告で紹介されていた商品・サービスを、普段の生活のなかの別のシーンで再びみかけると「これどこかでみたことがあるな。そうだ電車内広告だ」と記憶がよみがえります。記憶のよみがえりはその人にインパクトを与えるので、インターネットで調べたり、購入を検討したりといった行動を喚起します。
電車内広告の種類と特徴
電車内広告には主に次の9種類があります。それぞれの特徴を紹介します。
中吊りポスター
中吊りポスターは、電車内の天井付近に吊るされる広告です。形状は横長の紙製のポスターで、複数枚が連続して設置されることが一般的です。
乗客は座席に座りながら、あるいは、つり革を持ちながら自然に中吊りポスターに目をやります。
中吊りポスターは、手持ち無沙汰の乗客の読み物にもなるので、映画やドラマのPRや通信教育や資格スクールの宣伝に向いているでしょう。
ドア横ポスター
ドア横ポスターは、電車のドアの左右に配置される広告です。形状は縦長のポスターで、各ドアの両側に設置されます。乗客は、ドア付近に立っているときや、乗降時に目にすることが多く、短時間でも視界に入りやすい特徴があります。
ドア横ポスターに向いている商品・サービスは、スマホアプリ、求人情報、学習塾、フィットネスクラブ、保険などです。
ドア上ポスター
ドア上ポスターは、電車のドアの真上に設置される広告です。形状は横長のポスターで、各ドアの上部に一定間隔で配置されます。乗客は、座席から前を向いたときや、立ちながらふと視線を上げたときに目にします。
ドア上ポスターに向いているのは、飲料や化粧品、ファストフードの新商品です。
窓上ポスター
窓上ポスターは、電車の窓の上部に設置される広告です。形状は横長のポスターで、窓枠に沿うように貼られます。乗客は車内を見渡したときに目にします。
窓上ポスターに向いている商品・サービスは、映画の公開情報、マンガや雑誌の概要、金融サービス、医療クリニックなどです。
窓ステッカー
窓ステッカーは、電車の窓ガラスに直接貼られる広告です。形状は小型または中型のステッカーです。乗客は、窓の外をみようとしたときや、座席に座りながら自然に目を向けたときに目にします。
窓ステッカーに向いている商品・サービスは、すぐに内容がわかるもので、例えばタクシー配車アプリ、宅配サービス、観光案内などです。
ドアガラスステッカー
ドアガラスステッカーは、電車のドアのガラス部分に貼られる広告です。形状は比較的小さなステッカーです。乗客は、ドアが開くのを待っているときなどに目にします。
ドアガラスステッカーには、QRコードを活用したプロモーション用の広告や、割引クーポンの告知などがよいでしょう。
ドア上ステッカー
ドア上ステッカーは、電車のドアの上部に貼られる広告で、車両内の各ドアごとに設置されます。乗客は、乗降時や、電車内で視線を上げたときに目にすることが多く、自然と認識しやすい特徴があります。
ドア上ステッカーには、コンサートなどのイベント情報がよいでしょう。
車両ジャック広告
車両ジャック広告は、電車の特定の車両全体を1つの企業や1つのブランドが独占する広告手法です。中吊りポスター、窓上ポスター、ドア横ポスター、ステッカーなど複数の広告を組み合わせて展開されます。
乗客は、電車に乗った瞬間に広告の世界観に包まれます。
車両ジャック広告に向いている商品・サービスは、大規模なプロモーション、社運をかけた新商品のブランディング、映画・ドラマのPR、人気アーティストのツアー告知などです。
車両デジタルサイネージ
車両デジタルサイネージは、電車内に設置した液晶モニターに表示される広告です。形状は、縦長または横長のディスプレイで、映像やアニメーションを使って情報を伝えるのが特徴です。
乗客はテレビ番組やインターネット動画をみる感覚で車両デジタルサイネージを視聴します。
車両デジタルサイネージに向いている商品・サービスは、最新家電、スマホアプリ、保険・金融商品、自治体の啓発キャンペーンなどです。
成功事例から学ぶ電車内広告

電車内広告はどの企業にも向いている広告といえますが、その成功ストーリーは企業ごと広告事に異なります。
そこで5つのシチュエーションにわけて、電車内広告で高い効果を生み出す方法を解説します。
有名ブランドの活用事例
乳製品といえばこれ、といった認知を得ているナショナル・ブランドを展開する乳製品メーカーが、車両ジャック広告を出稿したことがあります。中吊りポスターも窓上ポスターも真っ白にして、画像も文字も載せませんでした。
真っ白の広告は「何も足さない」ことをコンセプトにした新製品のアイスクリームの宣伝で使われました。多くのアイスクリームは乳製品に砂糖や植物油脂などを足しているのですが、新製品では乳製品しか使わなかったのです。白には「足さない」以外に「ミルクだけ」というメッセージも込められています。
地域密着型広告の可能性
電車内広告は地域密着型広告にも適しています。
地方創生が重視されるなか、地域の魅力を発信し、観光客や移住希望者を増やすことが求められています。電車内広告を活用すれば、都市部の人々に地方の観光資源や特産品、移住促進の情報を直接届けることができます。これは都市部と地方を結ぶ電車だからできる広告戦略です。
新商品のプロモーションケース
新商品のプロモーションに電車内広告が向いているのは、電車にはさまざまな人が乗るからです。
例えば、都心部と地方の2カ所で、新商品の同じ電車内広告を展開すれば、その新商品が都市部で受けるものなのか地方の人に好まれるのかがわかります。同じことを通勤電車と通学電車にわけて行なえば、ビジネスパーソンに受ける商品か、学生に好まれる商品化がわかるでしょう。
このように、電車内広告は市場調査の一環としても活用できます。広告の反応をエリアやターゲット層ごとに分析すれば、今後のマーケティング戦略にも役立つでしょう。
キャンペーンの効果測定方法
企業が商品・サービスのキャンペーンを展開する際、電車内広告は効果測定のツールとして活用できます。
例えば、飲料メーカーが新商品のキャンペーンを実施する場合、電車内広告にQRコードを掲載し、乗客がスマホで読み取るとキャンペーン・サイトやクーポン配布ページに誘導される仕組みにします。複数のQRコードを用意すれば、地域ごとの関心度を分析できるでしょう。さらに、キャンペーン・サイトとクーポン配布ページのどちらがより効果的かを比較することも可能です。
小規模ビジネスの成功ストーリー
電車内広告はマスを対象にした宣伝手法と思われがちで、そのため小規模ビジネスを展開している中小零細企業や個人事業主などはあまり電車内広告を利用しません。だからこそ、小規模ビジネスで電車内広告を使うと意外性というインパクトが生まれます。
このメリットを活かせる広告主は、独立系のカフェや居酒屋、ファッション・ショップです。また、地元の複数の中小零細企業が提携して、合同の就職説明会の宣伝に電車内広告を使ってもよいでしょう。
電車内広告の出稿手順
電車内広告の出稿手順を解説します。
広告掲載の流れ
電車内広告はさまざまな種類があるので、広告主はまず、どのタイプの広告を出すか検討します。検討する内容は例えば、中吊りポスターにするのか、窓ステッカーにするのか。あるいは、どの地域を走る電車に掲載するのか、どれくらいの期間掲載するのか。そして予算の検討も必要になるでしょう。
広告主が要望を固めたら、電車内広告を運営している会社に打診をして、契約ののちに実際に広告をつくって電車内に掲示します。これと並行して広告制作会社とも契約します。
このような手続きを一手に引き受けてくれる広告代理店を探せば、大部分を「お任せ」することができます。
必要な書類と提出先
電車内広告を出稿するときに必要になる書類は次のとおりです。
- 広告掲載申込書
- 広告デザイン案
- 広告掲載期間や掲載場所を指定する書類
書類の提出先は、電車内広告の運営会社、または広告代理店などになります。
広告デザインのポイント
電車内広告のデザインでポイントになるのは、乗客の目を引けるかどうかです。電車内広告の面積はそれほど大きくないのでシンプルかつインパクトがある画像や文言がよいでしょう。
さらにQRコードを使うことで、インターネット広告との連動が可能になります。
予算設定とコスト調整
電車内広告の出稿を検討している広告主は、複数の予算案を持っておいたほうがいでしょう。電車内広告の料金は、掲載する電車の種類、掲載期間、掲載する電車が走る地域などによって変わるからです。広告主が複数の予算案を持っていれば、予算額によって柔軟に掲載方法を変えることができます。
また、広告主の想定より高額の見積書が出てきたら、コスト調整が必要になります。期間を短くしたり、シンプルな広告にしたりすることで費用を抑えることができます。
効果を最大化するタイミング
電車内広告では、出稿するタイミングを計ることがとても大切です。例えば、3月から4月に出稿すれば、いわゆるフレッシュ・パーソンたちに訴求できます。冬物バーゲンを宣伝するなら秋から出稿を始めたほうがよいでしょう。
バレンタイン、夏休み、ハロウィン、クリスマスといった季節性のあるイベントに合わせた電車広告も有効です。
電車内広告のデメリットと対策
電車内広告には、他の広告手法にないメリットがたくさんあるわけですが、万能というわけではありません。電車内広告には次のようなデメリットがあります。
■電車内広告のデメリット
- 競合広告があると埋もれてしまう
- 通行者の視線を集められない
- 広告効果のフィードバックが難しい
- 地域差が出てしまう
- 長期運用の効果を測りづらい
これらのデメリットの内容と、解消する対策法について説明します。
競合広告に埋もれないための工夫
電車内には広告スペースが多数存在するので、車両ジャック広告を出さない限り、競合広告との宣伝競争になります。自社の広告が目立たないと、競合広告に埋もれてしまうでしょう。
この課題を解決するには、ターゲットの視線を引くデザインや配置が有効です。例えば、他の広告と差別化を図るために色使いやフォントの大きさを工夫する、広告の場所を目立つ位置に選ぶことが効果的です。また、デジタルサイネージを活用することも、視覚的なインパクトを強めるための手段として有効です。
通行者の視線を集めるデザイン
電車内広告で効果的に視線を集めることが難しい場合があります。通行人の注意を引きつけるためには、広告が目立ち、かつ視覚的に魅力的である必要があります。
このデメリットを解消するには、目を引くデザインやキャッチコピーを使用することが有効です。広告に大きな画像やシンプルで強いメッセージを加えることで、忙しい通勤者の目に留まりやすくなります。
広告効果のフィードバック方法
電車内広告の効果を直接的に測定するのは難しい場合があります。乗客がどれだけ広告をみて、どのように反応したかを即座に把握することはできません。
このデメリットを解消するにはQRコードや専用のキャンペーンコードを使用することが有効です。これにより、乗客が広告をみてアクションを起こした場合、その効果を計測することが可能になるからです。
地域差を活かした戦略展開
電車内広告には、広告効果の地域差が激しいという欠点があります。例えば、ある地域を走る電車内広告で大きな成果が得られたのに、別の場所を走る電車では効果が薄かった、ということが起こりえます。
ただ、この地域差が大きい欠点は長所にもなります。地域特性を調べて、地域ごとに異なるメッセージを発信したりキャンペーンを展開したりすることで、その地域特有のマーケティング戦略を描けるようになるからです。
長期運用による効果の検証
電車内広告は通常、期間限定で出稿します。そのため長期間にわたって電車内広告を出稿した場合、その効果を継続的に追跡することが難しいことがあります。
このデメリットを解消するには、複数回にわけて広告キャンペーンを展開し、比較するとよいでしょう。例えば長期間掲載するとき、定期的に広告の内容を変更したり、特定の期間だけキャンペーンを実施したりすることで、効果の推移を把握できます。
まとめ
電車内広告はあらゆるタイプの消費者に商品・サービスを訴求できる優れた広告手法といえるでしょう。しかも多くの人が、公共交通機関に掲載されている広告に安心感を持っていて、この信頼性の高さは広告主にとって魅力的なはずです。
これだけ優れた広告手法なので、有名ブランドにも地域密着ビジネスにも新商品のプロモーションにも使うことができます。
自社の広告戦略に電車内広告を加えれば、マーケティングの成功にもつながりやすくなるでしょう。