世界で唯一のグローバルOOH業界団体WOO(World Out Of Home Organization) が定義するメディアカレンシー(媒体取引標準価値指標)に、OTC(Opportunity to Contact)とVAC(Visually Adjusted Contact)があります。
WOO「グローバルOOHオーディエンスメジャメント ガイドライン日本語版」では、「OTC」と「VAC」は以下の通り定義されています。
▼OTC (Opportunity to Contact) –
フレームを見ることができるエリア内に存在し、オーディエンスの移動方向でフレームが視界に入っており、何も障害物がない状態のオーディエンス数を指す。この指標は、ROTS(Realistic Opportunity to see)、OTS(Opportunity to see)、インプレッションなどと呼ばれることもあるため、ここにおいても使用する定義を明確にすることが重要である。この指標では、フレームに接触している間に広告メッセージを見る確率は考慮されていない。OTCはオンライン広告における「ビューアブル・インプレッション」に相当するもの、またはテレビやオーディオ広告が再生されている間「その部屋にいた」と記録している指標に相当するものといえる。
▼視認調整済みコンタクト (VAC = Visually Adjusted Contact) –
フレームを見ることができるエリア内に存在し、オーディエンスの移動方向でフレームが視界に入っており、何も障害物がなく、広告メッセージを見たと想定できるかどうかを加味したオーディエンス数を指す。多くの場合、広告コンテンツが流れている間に実際にOOHフレームを見るOTCの割合を視認調査によって求め、その確率モデルを適用することで算出する。この指標は、インパクト、LTS (Likelihood to See)、視認調整済みインパクト (VAI = Visibility Adjusted Impact)、あるいは「アイズ・オン・インプレッション (EOI = Eyes on Impressions)」と呼ばれることもある。VACは、オンライン計測における「ビュード・インプレッション」や、アテンション・ベースのメディア計測における「オーディエンス・インプレッション」に相当するものと見なすことができる。
「OTC」は広告を見た推計人数を表すわけではなく、広告が見えた機会のあった人数を表す指標です。一方、視認調整済みコンタクト「VAC」は広告を見たと想定できる人数を示し、広告効果を測定する上で非常に重要な指標であり、アイトラッキング技術を使用することで測定されることがあります。
OOHのオーディエンスメジャメントで先進国と言われる英国では、JIC(Joint Industry Currency)のRouteがオーディエンスを以下のように定義しています。
Audience definitions「オーディエンスの定義」
An audience “contact” is currently when an individual has a sufficient “likelihood to see” the advertising structure. This is then defined as having a “realistic opportunity to see” (ROTS) whereby they have spent time within an area from where it is possible to see posters / screens and are travelling in the direction of the ads.
「オーディエンス・コンタクトは、現在、広告を十分に「見る可能性」を持つ個人として定義している。これは、ポスターやスクリーンを見ることが視認可能なエリア内に滞在し、広告の方向に向かって移動しており、「広告を見ることができる」(ROTS)人を意味する。」
This ROTS figure is then adjusted down by a visibility coefficient to calculate “visibility adjusted ROTS” which are termed ‘impacts’. Thus, from an advertising perspective, a “contact” will be “eyes-on” the advertising structure (panel, screen etc.) rather than a simple exposure to the ads.
「このROTSに視認調整係数をかけた計算値は、「視認調整済みROTS」となり「インパクト」と呼ばれる。広告の観点からの「コンタクト」は単純な広告露出ではなく、広告(パネルやスクリーン)を「見ている」ことを指す。」
The delivered data currently provides estimates of the average audience based on the visibility adjusted ROTS for each frame.
「現在、各フレームの視認調整済みROTSに基づく平均視認者数の推定値がデータ提供されている。」
Route’s metrics are visibility adjusted. The gross audience exposed to the ads (total volume travelling on links within the visibility areas heading towards the ads) are netted down to account for the probability of the ads being seen. Route only reports those likely to have seen the ads – according to the findings of the eye tracking research (these will be made available) and people’s travel within visibility areas.
「Routeの指標は視認性が調整されている。広告を見ることができる総オーディエンス(視認可能エリア内で広告の方向へ移動する人の総数)に、広告を見ている確率を考慮し、アイトラッキングの調査結果と視認エリア内の人々の移動状況から、広告を見た可能性が高い人の数のみをレポートしている。」
インターネット広告のインプレッションは、広告が表示された回数を数値化した指標です。一方、OOH業界では、広告が見られた人数を算出するためにVAC(Visually Adjusted Contact):視認性調整済コンタクトが使用されます。
では、なぜOOH業界ではオンライン広告における「ビューアブル・インプレッション」のOTCではなく、「ビュード・インプレッション」のVACを採用しているのでしょうか。
Rotueに、オンライン広告の“Impressionはオーディエンスを最大91%過大評価する”というオンライン広告とOOH広告の比較資料があり、OOHのVACは、実際に広告キャンペーンを視認(視認したと想定できる)人の数をより正確に把握することができる、と述べられています。
世界各国のOOH業界は、OOH媒体が実際に見られていることを証明するために視認性調整済コンタクトのVACを使用しています。さまざまな調査により、まずOOH広告を見る機会のあった人数について、OOHのフレームが100%のビューアビリティを確保していること、何人の人がOOHフレームを見ることができるかをカウントします。次に、広告主が関心を持つアテンションについて、例えば英国では2000年代半ばからアイトラッキングの研究によってOOH媒体を見ている確率を計算してきました。
OOHの「アテンション・ギャランティー(注目度保証)」の考え方、つまり「ビューアブル・インプレッション」のOTCではなく、「ビュード・インプレッション」のVACに対してのみ広告費用を支払うメディアであることが、グローバルでOOH広告市場を成長させ、OOHのメジャメント方法を他メディアも理解し、追随するようになっています。
グローバルエージェンシーでは、プランニングツールにアテンション推定値を組み込み、「インプレッションCPM」だけではなく「アテンションCPM」を算出するようになってきています。
電通グローバル「世界の広告費成長率予測(2022年12月15日発表)」の主要な情報に、以下の記載があります。
Finally, marketers are taking more interest in Attention - the engagement that advertising receives across many platforms, rather than just whether it is viewable. Studies show that this attention correlates with the impact of campaigns, and the anticipated pressure on budgets should lead more to look at this area to ensure that their budgets work as hard as possible.
「マーケティング担当者は、“viewable”だけではなく、多くのプラットフォームで広告のエンゲージメント、つまり「アテンション」に関心を持っている。
予算が厳しくなれば、数字をできる限り厳しくチェックしようと考えるため、この「アテンション」指標の重要度に注目する人が増える。」
英国や米国など世界各国のOOH業界は、単なるインプレッションではなく、アテンションを提供することで、理論的にも実践的にも、成功と成長の道を切り開きました。
WOOグローバルガイドライン日本語版では、以下のように解説しています。
VAC(視認調整済みコンタクト=Visibility Adjusted Contacts)は、OOHのオーディエンス指標として一般的に使用されているが、すべての業界団体が採用しているわけではない。「アテンション 」がオーディエンス指標の要件として広く受け入れられるようになったため、つい最近になって他のメディア指標においても適用されるようになったが、OOHメディアにおいてはその大半が受動的に接するメディアであるため、従来よりこの指標を推進している。
OOHメディアは、他の多くのディスプレイ広告媒体と異なり、エディトリアル・コンテンツに邪魔されることなく、オーディエンスが受動的に接触し、消費することが多いため、VACを理解することは非常に重要であると考えられている。OOH計測においてこの高い「バー」を使用することによって、「人はポスターを見ていない」という主張に対する反論として、科学的研究をベースにOOH関係者は「見ている」ことを証明してきた。
外出中の多くの人々が受動的に接する1対多のOOHで、どのぐらいの人々が広告を見ているか説明責任を果たすために、世界各国のOOH業界団体は「VAC 」の算出を推進しています。
大阪メトロアドエラでは、OTCを算出するためにLiDARセンサーを活用した実験、視認性を調整したVACを算出するためにアイトラッキング調査を実施しています。