2025年5月、OOH(屋外広告・交通広告)業界にとって注目のカンファレンスがアメリカとオーストラリアで開催されました。
- 🇺🇸 Out of Home Advertising Association of America(OAAA)
OOH Media Conference 2025(2025年5月5日~7日、ボストン) - 🇦🇺 Outdoor Media Association(OMA)
OMA Conference 2025(2025年5月8日、豪・シドニー)
OOHは今、単なる「アウトドアにある広告」ではありません。
テクノロジーと測定、そして“成果へのつながり”という観点で、メディアの在り方が大きく変わろうとしています。
本ブログでは、両カンファレンスの内容を米国・豪州メディアやLinkedIn情報をもとに比較し、日本のOOH業界にとってのヒントを整理してみました。
●アメリカとオーストラリア、それぞれのOOH市場規模
国・地域 |
市場規模(2024年) |
特徴 |
🇺🇸 米国 |
約90億ドル(約1.3兆円) |
デジタルOOH比率34%、政治・ローカル広告が成長源 |
🇦🇺 豪州 |
約11億豪ドル(約1,100億円) |
デジタルOOH比率70%、全国測定システムMOVEの刷新を推進 |
🇯🇵 日本 |
約4500億円 |
統一的な測定指標は発展途上、都市集中傾向あり |
🇺🇸 OAAA(米国):OOHを“成果を生むメディア”へ
OAAAカンファレンスの今年のテーマは「The Power of Presence(存在感の力)」。
ここでいう「存在感」とは、単に「見える場所にある」だけでなく、感情・行動・文化への影響力を持つOOHの強みを再認識するものでした。
注目ポイント:
- OOHを“成果型メディア”として再定義
視認性だけではなく、「見られ、感じられ、影響を与え、行動喚起」が評価指標に - 統一戦略「One Voice」
業界全体で共通のメッセージと測定基準を整備し、広告主にとって使いやすいOOHへ - AI・自動化の全面実装へ
広告配信・測定・分析にAIをフル統合。OAAAは「AIはもはや特別な話題ではなく、前提となっている」と強調 - 人材育成と多様性
若手人材への教育、業界の多様性を高め社会に開かれた存在に
🧭 Geopathによる測定信頼性の再構築
米国OOHの測定機関であるGeopathもまた、カンファレンスで再出発を表明。「透明性と信頼性の再構築」を最優先課題とし、以下のような改革を紹介しました。
- リーチ&フリークエンシーモデルの刷新(2025年6月リリース予定)
→ 高精度な交通・移動データ、最新の道路情報、AIを活用した予測モデルを導入 - 測定の精緻化
→ 時間帯別の訪問・滞在データをより正確に取得し、施設タイプごとの一貫性も改善 - 第三者検証の導入
→ 数値の透明性確保のため、外部機関による分析をQ3に実施 - 中立性と財務健全性の回復
→ 会員への均等なサポートと資金管理を徹底し、OOH測定の“カレンシー”としての地位を維持
🇦🇺 OMA(オーストラリア):MOVEで「可視性」を再構築
一方、オーストラリアのOMAカンファレンスでは、OOH視聴者測定システム「MOVE(Modelled Outdoor Visibility and Exposure)」の刷新が発表されました。
このMOVEは2026年からの本格運用が予定されており、全国・屋内・地方都市すべてに対応した、科学的かつ全国スケールの測定モデルです。
MOVEの特徴:
・2.2百万人の合成人口モデル
→ 実測データ(5,000人×14日間の行動記録)に基づき仮想的な移動データを構築
・365日 × 1時間単位の視認データ
→ 季節・天候・時間帯による違いまで再現可能
・全国180,000ロケーションを網羅
→ 屋外だけでなく、商業施設内や地方都市の屋内もカバー
・57種の移動目的分類と個別行動の再現
→ 通勤・余暇・ショッピングなど、行動の“背景”まで分析対象に
🌍 共通する3つのトレンド
米国とオーストラリア、それぞれ異なる手法を取りつつも、共通して次の3点が強調されています。
- 成果主義の強化
OOHは単なる「見られた」メディアではなく、「人を動かす」メディアに進化 - テクノロジーの全面活用
AI、自動化、そして測定モデルの高度化が進行中 - 業界全体の統一戦略(One Voice)
分断をなくし、広告主にとって分かりやすく・使いやすいOOHへ
🗺 米豪アプローチの違い
観点 |
🇺🇸 OAAA |
🇦🇺 OMA |
評価の焦点 |
成果(行動・売上・ROI) |
視認性・行動予測の科学的精度 |
測定の基盤 |
Geopath:リーチ&フリークエンシーモデルの刷新+第三者検証 |
MOVE:全国網羅の合成モデリング&実測融合 |
AI活用 |
すでに業務統合済み |
システム刷新中(2026年運用予定) |
🇯🇵 日本への示唆
日本のOOH業界にとって、両国の事例は次のアクションを示しています。
✅ 測定の信頼性 → 透明性ある第三者測定がなければ、「成果」は語れない
✅ 業界横断の統一指標構築へ → 媒体社や広告会社、ベンダーの壁を越えた“共通指標”と“共通言語”が必要
✅ AI・分析の段階的導入 → 調査や計測、クリエイティブへの活用など、まず“できるところ”から
OOHは「目に入る場所」から、「行動を動かす場所」へ。
そして今、その価値を証明する“測定の精度”と“成果”が重要となっています。
米国・豪州の事例は、日本のOOH業界にとっても“次の選択肢”を考えるための重要な指針となるはずです。