序章:指標の「共通レイヤー」化
前回ブログで紹介したMRC OOH計測基準により、OOH広告の価値は「掲出(表示)」から「視認(Audience)」へ、さらにその先の「注視(Attention)」へと、世界的に評価のステージが変わりつつあります。
しかし、英国のRoute、米国のGeopath、豪州のMOVEなど、国や団体によって使われる用語が異なるため、「Impressions」「VAC」「Audience」「Attention」といった指標間の関係が曖昧になっているのが現状です。
本ブログでは、世界の主要プレイヤーを横断的に比較し、OOH測定がどのように5つの指標レイヤーに収束し、最終的にAttentionという共通言語に向かっているのかを整理します。
1. 世界のOOH測定は「5つの階層」に収束する
国や用語の違いを超えて、世界のOOH測定は共通して次の階層構造に流れ着いています。
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階層 |
指標名(概要) |
役割 |
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①Circulation |
交通量(人がその場所を通った数) |
計測の「入口」データ。広告効果ではない。 |
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② OTS / Viewable |
視認可能性(広告が物理的に見える状態だった回数) |
MRCのViewable Impressionに該当。 |
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③ LTS / VAC / Impact |
視認確率(見える状態から、実際に見られる可能性に調整した回数) |
視認確率の共通レイヤー。 |
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④ Audience |
視認推定(LTSに実証データや監査要件を加えたユニークな視認者数) |
最終的な“カレンシー”。デジタル・TVと比較可能。 |
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⑤ Attention |
注視(実際にどれだけ見たか、注目の質) |
Audienceの質を問う、次世代の評価基準。 |
世界が一致しはじめた「視認確率」指標(LTS/VAC/Impact)
階層③は、現在、各国が指標の共通レイヤーとして運用しています。呼び名は違えど、意味するところは非常に近くなっています。
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団体 |
視認確率指標 |
定義の合流 |
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Route(UK) |
Impact |
- |
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Geopath(US) |
VAC(Visibility Adjusted Contacts) |
- |
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MOVE(AU) |
Impact |
- |
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WOO(世界OOH団体) |
LTS = VAC = Impact |
WOOが公式に共通概念として統一。 |
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MRC(US監査機関) |
LTS(視認確率) |
Audience算出の必須要件として規定。 |
この共通レイヤーの存在により、世界のOOHデータは互いにベンチマークしやすくなっています。
2. AudienceとAttentionの関係性
① MRC AudienceはVACより「上位の指標」
前ブログでのMRCのAudience(階層④)は、単なるVAC/LTS(階層③)ではありません。
つまり、MRC Audienceは、VACに「信頼性、実証性、監査可能性」という品質保証を重ねた、より上位の指標と言えます。
② Audienceは「量」、Attentionは「質」
IAB(世界最大のデジタル広告業界団体)とMRCが共同で策定した IAB/MRC Attention Guidelines(2025年正式版)では、AttentionがAudienceの上位工程として明確に定義されています。
OOHは、デジタルやTVと同じく、この「Perception(視認)」「Attention(注視)」 「Memory(記憶)」という三階層モデルに組み込まれ、質的な評価が可能になります。
3. Attention評価の具体的な手法
IAB/MRC Attention Guidelinesでは、OOH、デジタル、TVを横断してAttentionを評価する方法を明記しています。
特にOOHは、クリエイティブ × 媒体環境 × 視線分布の影響が大きいため、AIによる注視予測モデルの役割が極めて重要になります。
まとめ:OOHの価値は「Attention」へ
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評価の進化 |
過去 |
現在 |
今後 |
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コア指標 |
Circulation(交通量) |
Audience(ユニーク視認者数) |
Attention(注視時間・質) |
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OOHの価値 |
「表示した」こと |
「見える状態で、見た可能性が高い人がいた」こと |
「実際に人々の注目を集め、記憶に残る機会を提供した」こと |
OOHは、「測れない媒体」から「Audience(量)」を経て、「Attention(質)」という最も価値の高い指標で語れる時代に入りました。
この国際基準と最新のAI技術を組み合わせることで、私たちはOOHのアテンション価値を定量化し、クライアントのメディアプランニングに革新をもたらすことができるようになります。