広告が本当に見られたか?
それを測る指標として、グローバルで議論されている「Attention Measurement」。
デジタル広告を中心に、IAB/MRCが策定した「Attention Measurement Guidelines(2025年ドラフト)」では、アテンションを測るために4つの主要カテゴリがあり、各カテゴリ内に、より具体的な測定指標が存在します。複数の指標を組み合わせて「Attention Measurement」が成立するという指針のようです。
なお、IAB/MRCは「Attention Measurement Guidelines(2025年ドラフト)」にパブリックコメントを受け付けており、私も疑問点や意見を送っているので、公表可能な回答あれば、後日ブログで紹介したいと思います。
OOH業界ではWOO(World Out of Home Organization)が推奨する「VAC(Visibility Adjusted Contact)」が、長年にわたり標準取引指標とされてきましたが、OOHのVACとIAB/MRCのAttentionとどう違うのか?
今回、IAB/MRCの指標の出力例や考察を交えながら、WOO VACとの違いも整理します。
■ Key Attention Measurement
主要カテゴリ(4つのカテゴリ) |
役割・意味 |
その中に含まれる代表的な指標 |
Exposure |
ユーザーが広告に接触したかどうか |
Viewability, Time-in-View, Gaze Tracking, Audibility など |
Cognitive Load |
ユーザーが広告を理解するための精神的な負荷 |
認知負荷評価(心理テスト、脳波、行動反応など) |
Emotional Response |
ユーザーが広告を見た時の感情反応 |
表情認識、感情分析、音声トーン分析など |
User Interaction and Behavior |
ユーザーが広告に対して取った行動や操作 |
クリック、スワイプ、スクロール速度、停止時間、再生時間など |
IAB/MRCの「Attention Measurement Guidelines(2025年ドラフト)」では、Attentionを測定するための1つがExposure指標であり、Exposureが測定されていない状態では、Attentionの測定も成立しないということです。
広告がまず「表示され」「ユーザーの視界内に入り」「視線が向けられた」ことが確認された上で、初めてその後の認知・感情・行動を含むAttentionの測定が意味を持ちます。
■ IAB/MRCのExposure指標とは
IAB/MRCは、Exposureを単なる表示確認ではなく、視線、存在、画面上の時間など多角的なデータで定量化することを提唱しています。
"Exposure is a composite measure that captures the potential overall level of ad or content exposure.
It provides insights into how long, how intensely, and under what conditions users may be exposed to an ad or content."
(Exposureは、広告やコンテンツがどれくらい、どの程度の強度で、どんな条件下で接触されたかを総合的に捉える複合指標です)
■Exposureに関する主要指標と出力例
指標 |
定義 |
出力例 |
Viewability |
MRC基準(50%以上ピクセルが1秒以上、動画は2秒) |
Viewability Rate:81.9% |
Visibility |
広告が画面内に一部でも存在(MRC基準問わず) |
Visibility Rate:92.1% |
Visible Time |
Viewability基準に関係なく、画面内に存在した累積秒数 |
Avg. Visible Time:5.2s |
Time-in-View |
MRC基準準拠で広告が可視状態にあった時間 |
Avg. Time-in-View(Creative):5.8s |
Gaze Tracking |
実際にユーザーが視線を向けた時間・Fixation時間 |
Avg. Fixation Time:610ms |
Peripheral Focus |
周辺視野で広告が捉えられた時間・確率 |
Peripheral Engagement Time:980ms |
Presence of User |
ユーザーがその場に存在していたかの検知 |
Presence Score:0.91 |
・出力例からの考察
1. Viewability Rate:81.9% / Avg. Time-in-View:6.7秒
Viewabilityは81.9%、平均接触時間は6.7秒と表示時間は確保されていますが、この数値だけではユーザーが実際に「見た」か、「意識した」かはわかりません。
OOHでVACの高いロケーションでも、実際の注視は必ずしも高くないことと同様です。
存在 ≠ Attentionを意識する必要があります。
2. Visibility Rate:92.1% / Visibility-to-Viewability Rate:78.44%
Visibilityは92.1%と高い一方、MRC基準のViewabilityに満たなかったケースが21.56%。
OOHのVACでも同様ですが、「広告が目に入った可能性」は示せても、そこから先の「見た」「認知した」は、補完なしでは評価できません。
3. Visible Time:5.2秒 / Visible Time Rate:65.4%
Visible Timeは画面内に存在した累積時間(5.2秒)で、接触の可能性は示しますが、注視や意識されたかは不明。
OOHでもVACやOTSベースの時間では広告の注目や影響力を評価するには不十分です。
4. Time-in-View(Creative):5.8秒 / Placement:6.3秒 / Content:7.1秒
広告がMRC基準を満たした状態で画面内にあった時間。
クリエイティブよりもPlacementやContentの方が長く表示されたことは、広告以外の環境要因が接触時間に強く影響することを示唆。OOHでもロケーション設計が重要な理由です。
5. Gaze Tracking:Fixation Time 約0.61秒 / Gaze Match Rate:72% / Dwell Time:約2.1秒
Fixation(視線固定)は平均約0.61秒、Dwell Time(広告を見続けた時間)は約2.1秒。
Viewability 6.7秒に比べ、実際に「見た」時間は極めて短い。
OOHでも、VACだけではこの「実際に目を向けた時間」は推定できないため、アイトラッキング調査やAI活用の予測モデル等での補完が必要。
6. Peripheral Focus:約0.98秒 / Fixation Probability in Periphery:42%
周辺視野で広告が捉えられていた時間は約0.98秒。
直接注視されなくても周辺視野で意識されている可能性を示唆。OOHでは群衆環境など、Peripheral Focusの比重が高いため、サリエンシー解析や群衆視線推定で補完可能。
7. Presence of User:Score 0.91 / Present User Count:92,350
ユーザーがその場にいたことは高確率で検知されていますが、視線を向けたか、注目したかは不明。
OOHでも、人流データやセンサーは接触機会の推定には有効ですが、そこからAttention測定には進化が必要です。
■ WOO(OOH業界)のVACはAttentionか?
一方、OOH業界はWorld Out of Home Organization「 Global OOH Audience Measurement Guidelines 2022」で 以下のように定義されています。
"VAC is the standard currency for OOH measurement and represents the probability-adjusted contacts derived from visibility studies. It has been used for many years as a proxy for attention, as direct attention measurement in OOH environments remains challenging."
(VACはOOHメジャメントの標準通貨であり、視認性調査から導かれる確率補正接触指標。OOH環境では直接的なAttention測定が難しいため、長年Attentionの代理指標として使用されてきた。)
WOOでは、VACを「Attentionに近い代理指標(proxy)」と位置付けていますが、IAB/MRCの定義する最新の「Attention」とは立ち位置が異なっています。
グローバルOOH業界としても、VACに加え、"Attention"測定に必要なデータをどう補完するかが、クロスメディア評価時代の課題と言えるでしょう。